かつてのTwitterアカウント(削除済み)の別館です。
主に旅での出来事につき、ツイートでは語り切れなかったことを書いたりしたいと思います。

釜山の旅[その3] - 「甘川文化マウル」と、臨時首都・釜山の1023日間を記憶する博物館

前々回のエントリーの続きです。

gashin-shoutan.hatenablog.com

明けて、2月11日(土)の朝。
ホテルから近いKorail「沙上」(ササン)駅前の「沙上駅」バス停より8番バスに乗車に。ここ沙上と、地下鉄(都市鉄道)1号線「チャガルチ」駅からも近い「西区庁」バス停(さらには同1号線「南浦」(ナムポ)駅や影島(ヨンド)など)とを結ぶ路線ということで、今回の旅ではたいへん重宝しました。

 

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こちらは今回の旅の写真ではありませんが、釜山の市内バスです。まるで日本の路線バスのようですね。ここ釜山や光州の市内バスは、正面のLED表示に系統番号や韓英日中4言語での行先表示がローテーション表示されており、観光立国を志向する韓国でも最先端をゆくものです。私を含め外国人旅行者にとってはほんと大助かりです。日本でも追随することを切に願うばかりですが抗議デモでも起こされそうですね。観光立国の道はるか遠し。

話がそれましたが、30分程度で「西区庁」バス停に到着。今度は同じ「西区庁」という名でもわずかに離れたバス停から、<서구(西区)2>マウルバスに乗り換えます。
釜山のマウルバスは、主に十数人乗り前後のマイクロバスで区ごとに運行されておリ、各区の隅々に点在するマウル(마을:村、集落などの意)へと路線網を広げています。都市鉄道を大動脈、市内バスを動脈にたとえるならば、マウルバスは釜山の毛細血管というべき存在でしょうか。

細く曲がりくねった坂道を上り、終点「甘川初等学校.甘川文化マウル」にて下車。その名前からもお分かりの通り このバス停こそが「釜山のマチュピチュ」などの異名で知られる「甘川 (カムチョン)文化マウル」の玄関口です。

 

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下車してすぐの展望台から眺めた「甘川文化マウル」。視界のすべてが色とりどりの住宅群という他に類を見ない景色にただただ圧倒されます。

 

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この「甘川文化マウル」、元々は1910年代に「太極道」(태극도:テグット)という宗教団体が現在の甘川2洞 にあるパンダル峠(반달고개)の斜面に築いた信者向けの住宅群を発端とするものであり、現在へと続く 「すべての住宅の景色が遮られない」階段式配置はこの時点ですでに確立されていたようです。その後1950年に朝鮮戦争が勃発、最後まで朝鮮人民軍に占領されなかったため全国から避難民が釜山へ押し寄せる中、ここ甘川もそうした避難民たちの受け皿となりました。

休戦後の貧しく厳しい生活をそのままに残したタルトンネ(달동네:斜面などに形成された低所得層の集落)のひとつであった甘川2洞の住宅群。その再生の一環として各戸をさまざまな色で塗り分け壁画を描き、それらの順回路を整備するなどの観光地化の試みが功を奏した結果、いまでは年間140万人もの観光客が押し寄せる釜山の一大観光地にまで成長したわけです。

 

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バス停からほど近い案内センターでは、日本語版を含むマウルのガイドマップを2,000ウォン(約200円)で販売しています。有料のガイドマップは韓国でも珍しいですが、その分出来がしっかりしていますし(閉じたり開いたりしても破れない!)、マウルの主要スポットを巡るスタンプラリーも楽しめるようになっています。こうした試みこそが今日の成功の秘訣かもしれません。公式サイトによると案内センターには荷物も預けられるようですね。

 

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この日は寒い朝でした。屋根の上でひなたぼっこする猫さん、なごみます。

 

f:id:gashin_shoutan:20170418235305j:plain順回路のあちこちに展望台が設けられ、色とりどりの住宅やはるか遠くの甘川港、松島(ソンド)と影島とをつなぐ南港大橋までも望むことができます。

 

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いくつかの空き家は、絵画やオブジェなどが展示されたギャラリーになっています。足を踏み入れると、その狭さに驚かされるとともに、避難民たちの生活の辛苦がしのばれます。

 

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大多数の住宅には住民の方が暮らしています。観覧の際にはどうかお静かに。

 

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住宅の間を縫うように張り巡らされた歩道は、そのほぼすべてが別の道と接続していることから「ミロ(迷路)マウル」の異名を持っています。

 

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順回路の終わり近くにある「甘内(カムネ)オウルト」(감내어울터)。かつての沐浴湯(銭湯)を再利用した建物で、入口ににあるかつての番台には女性の人形が。ギャラリーに改装された浴室の壁にはシャワーが残されています。そして中央には当時の湯船もそのままに、気持ちよさそうに湯に浸かる男性の人形まで。まあお湯はないけどな!

甘川文化マウルへのアクセスは、「西区庁」バス停からだと<사하구(沙下区)1-1><서구(西区)2-2>の各路線もありますが、先に紹介した<사하구2>が最も高頻度(平日・週末とも約11分間隔)であるうえ、下車すべき「甘川初等学校.甘川文化マウル」バス停が終点なので乗り過ごす心配もなく、おすすめです。地下鉄(都市鉄道)1号線「土城」(トソン)駅を経由しますので、地下鉄からの乗り換えならばこちらがより便利です。
甘川文化マウル(감천문화마을:釜山広域市沙下区甘川洞ー帯) [HP]

 

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甘川文化マウルを後にし「土城駅」バス停で下車。大通り沿いに歩いて北へ向かうと、路面より高い敷地に突如、この路面電車が現れます。
この路面電車はかつて市内を走っていた釜山市電の車両で、米シンシナティにて1927年に製造されたもの。2012年に「釜山電車」の名で国指定登録文化財第494号にも指定されています。

 

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電車の内部。驚くべきことに木製の固定クロスシートです。しかも左右逆向き。

 

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電車の外観。当時の電停が漢字で表記されています。結構長い区間を走っていたことが分かります。

 

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観覧時間が「13:00~14:00」とあります。電車は東亜大学校の敷地内にあり、この時間帯でなくとも観覧は可能ですが、この時間帯であれば内部を開放するという意味かもしれません。

釜山電車(부산전차:釜山広域市 西区 九徳路 225 (富民洞2街 1)。指定登録文化財第494号)

 

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路面電車の手前を左に曲がり、突き当たりを右へ少し進むと「臨時首都記念館」の門が現れます。
この「臨時首都記念館」は、1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争(6.25)直後の首都ソウル陥落後、中央政府がここ釜山へ移転したことによリ、前後2回、計1023日にわたり臨時首都として機能した歴史を記憶するための施設であり、2つの建物により構成されています。

 

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玄関を入ってすぐにあるのは「大統領官邸」。ここ釜山が臨時首都であった当時の大統領、李承晩(이승만:イ・スンマン、1875-1965)の官邸として使用された建物です。日帝強占期の1926年築、独特の和洋折衷様式となっています。元々は慶尚南道キョンサンナムド)知事官舎として使用されていた建物で、首都機能がソウルに戻ってからは再び知事官舎に戻り、慶尚南道庁が昌原(チャンウォン)へ移転した1983年まで使用されました。翌84年、臨時首都記念館として開館。

 

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大統領官邸には、靴を脱いで入館します。建物の玄関を入ってすぐ受付があり、年配の男性が日本語で丁寧な案内をしてくださいました。

 

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玄関を入ってすぐ右側には、広い応接室が。暖炉も設置されています。

 

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応接室と隣接し、受付のちょうど裏側に位置する書斎。李承晩大統領の蝋人形が鎮座しています。

 

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食堂と厨房。

 

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竣工当時からある有田焼の便器。床のタイルもまた1926年の竣工当時からのものだそうです。施錠されていたため写真はありませんが、2階には李承晩大統領も好んで使用したという洋便器があるとのこと。

 

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元々は官邸の警備室だった部屋では、朝鮮戦争の際に19歳で志願入隊し、諜報活動に携わったイ・ジョンスク(이정숙)さんの証言を聞くことができます(韓国語のみ)。

 

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浴室。床のタイルは近年張り替えられたようですが、湯船を含む浴室の作り自体は当時のままだとのこと。扉は外に通じており、受付の方の話だと緊急時に入浴者が外部へ避難するために設けられたものだそうです。

 

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2階には、朝鮮戦争当時に使用されていたいくつかの物品が展示されています。
写真はそれらのうち、李承晩大統領の防寒着と、妻のフランチェスカ氏のコート。

 

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裏側から見た大統領官邸。こちらの建物、大邸宅の部類に入る規模とはいえそこまで巨大な物件ではないにもかかわらず、奇妙なことに階段が2つもありました。また、先に紹介したトイレも出入口が2つ。受付の方によると、これらは緊急時に主人が脱出しやすいよう二重系になっているとのこと。日本でいう忍者屋敷のようなものだとユーモアを交えつつ話してくださいました。

 

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大統領官邸の裏には、「臨時首都記念館」を構成するもうひとつの建物であり、1987年築の釜山高等検察庁検事長官舎を再利用した「展示館」があります。2002年開館。こちらは土足のまま入れます。

 

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ソウル陥落が目前に迫り、避難民が殺到する釜山行の列車を再現した展示物。台車は実物のようです。

 

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避難民が生活した小屋を再現したもの。身ひとつで命からがら郷里を離れた避難民にとって、このような粗末な小屋であっても当座の生活拠点となり、命をつなぐ大切なものでした。

 

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釜山名物、ミルミョン(밀면)の店を再現したもの。38度線以北から釜山へやって来た避難民たちは生活のため郷里の冷麺を作って売り出しますが、ジャガイモでんぷん由来の硬い面に不慣れな釜山の人たちの好みに合わせるため、小麦粉を加えた柔らかい麺に代えて売り出したのがミルミョンの始まりとされています。こうした経緯から、ミルミョンはここ釜山での避難民の辛苦を象徴する料理のひとつとなっているようです。

 

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こちらがミルミョンの実物。一昨年(2015年)11月、同じ釜山の南区牛岩洞にある「内湖冷麺」(내호냉면:ネホネンミョン)にて撮影したもの。鄭銀淑さんの著書『釜山の人情食堂』によると、こちらのお店の先々代もまた朝鮮戦争の際に咸鏡南道(ハムギョンナムド:現在は朝鮮民主主義人民共和国)の興南(フンナム)から避難し、釜山に定着された方とのことです。ミルミョン、うんまかったです。

 

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「求職」の札を首から下げた男性の人形。避難民でしょうか。憔悴しきった表情を含め、強い印象を与える展示物です。

 

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館内に再現された、朝鮮戦争当時の茶房(다방 :喫茶店)のテーブルに埋め込まれている「『そのとき、その歌』情報検索KIOSK」。スクリーンにタッチして、当時の流行歌を聴くことができます。

ここ「臨時首都記念館」は、地下鉄1号線「土城」駅2番出口より徒歩約6分。前述の通り「甘川文化マウル」行きのバスも同駅を通りますので、あわせて訪問するのもよいでしょう(「土城」バス停からだと徒歩約10分) 。開館時間は9:00~18:00、月曜と元日は休館。入場無料です。
臨時首都記念館(임시수도기념관:釜山広域市 西区 臨時首都記念路 45(富民洞3街 22)) [HP]

それでは、次回のエントリーへ続きます。

泰安の旅 - 広大な干潟がもたらす春限定の味覚「ポンソルゲ」(アナジャコ)を味わう

本来ならば今回は本年(2017年)2月の釜山の旅の続きなのですが、今回は特別編として、ちょうど1年前の本日(4月9日)に0泊の弾丸で出かけた、忠清南道(チュンチョンナムド)・泰安(テアン)の旅を紹介したいと思います。

 

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深夜の羽田空港。前回(2016年3月)の江原道の旅に続き、この日もピーチの深夜発の羽田~仁川便を利用。この便が登場したおかげで、旅の1日目がより有効に活用できるようになりました。

 

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仁川国際空港に到着。空港鉄道「A'REX」の「仁川国際空港」駅から一般列車の始発に乗車し、「桂陽」(ケヤン)駅で仁川地下鉄1号線に乗り換え。写真は仁川地下鉄1号線の車内。これまで韓国では大田(テジョン)を除く全5都市の地下鉄に乗車してきましたが、通路の上に太極旗が貼られているのは初めて見ました。

 

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「仁川ターミナル」駅で下車、地上に出たすぐにこの「仁川総合バスターミナル」( 인천종합터미널)があります。300万都市を代表するバスターミナルだけあってなかなか立派です。

 

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広い内部は吹き抜けになっていて、その内側には各路線の時刻表が。かなりの本数が出ていることが分かります。

 

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妙にかっこいい電光掲示板。もちろんこれがすべてではなく、行先の地方ごとにローテーション表示されます。向かって左側、オレンジの方は「市外バス」(시외버스)、右側の緑の方は「高速バス」(고속버스)であり、韓国では明確に区分されています。

 

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今回はこちらの市外バスで、目的地の泰安へ。
この日(4月9日)、同じ韓国でも慶尚南道キョンサンナムド)昌原(チャンウォン)市の鎮海(チネ)やソウルの汝矣島(ヨイド)などでは大規模な桜祭りが、また全羅南道(チョルラナムド)の珍島(チンド)では天童よしみさんの歌でも有名な海割れ祭りが開催されていました。その一方で私はそんなお祭りの数々を横目に、この時期限定の味覚を味わうために泰安へと向かったわけです。まさに花より団子。

 

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本来の所要時間は1時間50分ですが、この日は8分遅れで「泰安バスターミナル」(태안버스터미널)に到着。忠清南道にやって来たのは初めて。

 

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泰安バスターミナルには、コインロッカーがありました。韓国の地方のバスターミナルではコインロッカーがないところが多々あるので、こうした姿を見る度にうれしくなってしまいます。ただし今回は日帰りで荷物が少ないので使用せず……

 

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写真からも分かるように、この日は濃い霧が街を覆いつくす中を、ターミナルから市街地方面へ歩いてゆきます。
しばらく歩くと、泰安の2大在来市場のひとつ「泰安特産物伝統市場」(태안특산물전통시장:テアントゥクサンムルジョントンシジャン)が。「泰安常設市場」(テアンサンソルシジャン)とも呼ばれるこちらの市場は、日用雑貨の販売がメインです。

 

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そんな特産物伝統市場の一角には、獲れたての海産物を販売し、店内で賞味できる店舗も。しかし、まだ午前9時台ということもあり、どこも開店準備中です。
ここ忠清南道泰安郡一帯は、その名を冠した「泰安海岸国立公園」を含む西海(黄海)に面しており、また干潮時には広大な干潟が形成されることから、これらからもたらされる海の幸の豊富さで知られています。中でも有名なのは、ここ(泰安邑)と同じ泰安郡内にあり観光地としても知られる安眠島(안면도:アンミョンド)の名物「ケグッチ」(게국지:名産のワタリガニとキムチを煮込んだ鍋料理)ですが、今回は目的である旬の食材を味わうため断念。いつか食べてみたいものです。

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続いて、特産物伝統市場の西側一帯に展開する「泰安西部市場」(태안서부상가:テアンソブシジャン)へ。こちらは食品メインの市場であり、山の幸も海の幸もまんべんなく販売されています。大好きな韓国在来市場の雰囲気。何度訪れてもたまりません。市場のアーケード入口に掲げられたコッケ(ワタリガニ)さんのキャラもいい感じです。

 

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思えばこの日は、仁川国際空港のコンビニで買ったおにぎりしか食べていません。そんなわけでまずは腹ごしらえ。
ここ泰安西部市場には小さな飲食店街もあり、今回の旅最初のちゃんとした食事は、その中に店を構える「パジョンカルグクス」(파전칼국수)という店にて。

 

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こちらは2人の女性がサジャンニム(店主)として切り盛りするお店で、元々は店名にもある通りパジョン(ネギ入りのチヂミ)も出していたものの、来客が名物のカルグクスばかりを注文するため、写真のメニュー表にもある通りいつの間にかカルグクス一本となってしまったとのこと。
そんなわけで私も、名物のカルグクスを注文。

 

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出てきたのは、一般に「パジラッカルグクス」(바지락칼국수)と呼ばれるもの。「パジラッ」(바자락)とはアサリのことで、手打ちならではのやや不揃いの太麺に、泰安の浜で毎朝獲ってくるという大粒のアサリがたっぷり乗っています。
ずるずる。讃岐うどん並みに歯ごたえのある麺にアサリのダシが効いたスープ、そしてぷりっぷりのアサリ。これは、うんまい。あっという間に完食。
あまりのうまさに次の食事のことも忘れて、お店の方がすすめて来られた替え玉をまたずるずる。こちらも完食。
このボリュームで、なんと3,000ウォン(約300円)。替え玉はもちろんサービス。泰安を訪問された方にはぜひご賞味いただきたい一品です。

パジョンカルグクス(파전칼국수:忠清南道 泰安郡 泰安邑 市場1ギル 34 (南門里 170-4))

 

続いていよいよ今回のメインの食事……と言いたいところですが、さすがにすぐにはお腹がすかないので、まずは西部市場内の海産物売り場を物色します。
今回目当ての食材は季節性が強いだけあって、本場・泰安でさえもその専門店はないとのこと。そのためまずはその食材を市場内で購入し、そのまま持ち込んで調理してくれる飲食店に持ち込む必要があるためです。
このように在来市場で購入した海産物を持ち込んで有料で刺身やヘムルタン(海鮮鍋)などに調理してくれる飲食店は、ソウル・鷺梁津(ノリャンジン)水産市場のそれが有名ですが、ここ泰安西部市場を含め実は地方の在来市場でも普通に見られるものです。

f:id:gashin_shoutan:20170409145437j:plainこちらこそが今回の泰安行き最大の目的、泰安の広大な干潟で獲れる「ポンソルゲ」(뻥설게)。日本でいうアナジャコです。韓国では一般にソッ(쏙)と呼ばれるものですが、干潟に形成された巣穴から抜き取る際の「ポン」という音から、ポンソルゲの異名でも呼ばれています。また、ここ泰安地方の方言では「ソルギ」(설기)と呼ばれるとのこと(そのため西部市場で「ポンソルゲ」と呼んでも通じなかったという……)
アナジャコ自体は通年の食材ですが、産卵期である毎年3~4月には写真のように黄色い卵を抱き風味がより一層増すことから、特に旬とされています。

 

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向かって左がポンソルゲ、右はケッカジェ(갯가재:日本でいうシャコ)。同じ「シャコ」が付くとはいえ、生物学上はかなり遠い間柄です。

さてようやくポンソルゲ入手のめどは立ったものの、調理してくれる市場2階のお店には鍵が。つたない韓国語で近くのお店の方に聞いてみると、サジャンニムはおそらく13時にならないと来ないとのこと。時計はまだ午前中。仕方ないので腹ごなしを兼ねて西部市場そばの沐浴湯(銭湯)でひとっ風呂浴びたりしつつ、時間をつぶします。

 

13時から少し遅れて、ようやく中尾彬さん似のサジャンニムが登場。早速、15,000ウォン(約1,500円)で購入したポンソルゲ1kgの調理を依頼します。

 

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そうして待つこと約30分、登場したのがこちらのタン(탕:スープ)とティギム(튀김:天ぷら)。ポンソルゲの殻は柔らかいので、殻も脚もまるごと食べることができます。さっそくひと口。うんまい。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐります。お腹に抱いた卵もいい味出しています。どちらもおいしかったですが、個人的にはティギムが好みです。
ポンソルゲのおいしい食べ方には、今回登場したタンとティギムのほか、チム(찜:蒸し)もあるとのこと。いつかこちらでも食べてみたいですね。

 

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忠清道の地ソジュ、「O2린」(オーツーリン)。ポンソルゲタンによく合います。

 

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今回このポンソルゲを食べたお店「ムルガ マシッケモンヌンナル」(물가 맛있게먹는날)は、お通し代(1人あたり5,000ウォン)と調理代(1kgあたり10,000ウォン)の計15,000ウォン(約1,500円)でこれだけの調理をしてもらえました。持ち込んだポンソルゲ1kgが同じく15,000ウォンでしたので、合計30,000ウォンということになります。
市場内にかけられた天幕には12:00~22:00営業とありましたが、前述の通りこの日の開店は13時過ぎとなりました。

ムルガ マシッケモンヌンナル(물가 맛있게먹는날:忠清南道 泰安郡 泰安邑 市場1ギル 34 (南門里 171-2)) [HP]

 

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おなかいっぱいになったところでバスの時間。帰りは2&1シートのソウル・セントラルシティターミナル行き優等バスで泰安を後にします。今回の泰安での滞在時間はわずか6時間半、ただ食べてばかりの旅でしたので、次は安眠島などの観光地を含めゆっくり旅してみたいものです。

 

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ちなみにこの日はソウルへ戻った後、新村(シンチョン)にある現代百貨店U-PLEXで開催中だった「ロボットテコンVリターンズ」展を見てまいりました。
『ロボットテコンV』(로보트 태권V)とは、1976年に劇場版第1作が制作され、40年あまりを経た現在でも絶大な人気を誇る韓国の巨大ロボットアニメです。2015年にはリメイクの映画も制作されたのでそちらをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。韓国でも大人気だった『マジンガーZ』のパクリだと非難する人もいますが、その名の通り格闘技であるテコンドーを駆使して戦う点で、それまでの日本製巨大ロボットアニメとは一線を画す作品です。
この展示では歴代テコンVの巨大フィギュアやセル画、当時のグッズなどを展示。店内5か所に設置された歴代テコンVを巡ると特製ポストカードがもらえるスタンプラリーもあったりしてなかなか楽しめました。
このイベントはすでに終了しておりますが、ここソウルには『ロボットテコンV』の常設テーマパーク「Vセンター」(V센터)もあります。こちらもいつか行ってみたいものです。

その後は22時台のピーチ便に乗って再び羽田空港へ。とはいえ到着時点ですでに終電は出た後ですので、空港内のベンチに座って眠りつつ始発まで過ごす私でした……

 

泰安の旅、お読みいただきありがとうございました。
次回からはまた、2017年2月の釜山の旅に戻ります。

 

釜山の旅[その2] - 大量のおかずが出てくる国際市場の酒場に、富平カントン市場の名物「夜市場」

前回のエントリーの続きです。

 

gashin-shoutan.hatenablog.com

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再び2月10日の夜に戻ります。
「平和の少女像」のある「草梁」(チョリャン)駅から地下鉄(都市鉄道)1号線に乗り、「チャガルチ」駅で下車。有名なチャガルチ市場からも近いこの駅、日本語表記がふんだんにあります。

 

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ここから北側に歩いて5分程度の距離にあるのが、釜山を代表する在来市場のひとつ「国際市場」(국제시장:クッチェシジャン)です。光復(광복:クァンボク。日本の敗戦による解放)の後、朝鮮を去り行く日本人が持ち帰れない分の物資を販売したことから始まった市場で、その後朝鮮戦争期の米軍(国連軍)の放出物資の売買などを経て現在へと至ります。米軍の駐留により海外の品物が扱われるようになったのが「国際市場」の名の由来とのことです。

 

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写真のお店は、この国際市場を日本でも有名にした映画『国際市場で逢いましょう』の主人公、ドクスの店のモデルとなった「コップニネ」(꽃분이네:「コップンの店」の意)。20時過ぎなので他の店と同様に閉まっています。看板にはドクス(を演じたファン・ジョンミンさん)の写真も。
国際市場の大半の店の営業時間は9:30~20:30。下のリンクは国際市場のうち「コップニネ」の位置を示しています。

国際市場(국제시장:釜山広域市 中区 国際市場1ギル(新昌洞4街) 一帯)

 

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その中央を南北に貫くアーケード通りをさらに北へ進むと、市場の最後のブロックにいくつかの飲食店があります。今回の目的地は、これら飲食店のうちのひとつ「コチャンチッ」(거창집)。釜山の旅には決して欠かせない鄭銀淑さんの著書 『釜山の人情食堂』で知ったお店で、私にとっては一昨年(2015年11月)以来、2度目の訪問となります。昨年にはNHKのTV番組『世界入りにくい居酒屋』でも紹介されたので、ご記憶の方もいらっしゃるでしょう。
ちなみに店名の右側に書かれている「실비」(シルビ)とは「実費」の意。ほぼ実費(原価)で提供していますよ、という意味を表わしています。

 

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こちらのお店の特徴は、30,000ウォン(約3,000円)でビールまたはソジュ3本と十数種類のおかずが出てくるシステムであること。もちろんビールやソジュは単品(3,000ウォン)でのオーダーも可能です(マッコリはありません)。
おかずは港町・釜山らしく海産物中心。全体像を撮ろうにも食べている途中で次から次へとおかずが出てくるので、途中からは追加分のみの写真となってしまいました(食べかけの写真は見たくないですよね)。最終的に数えたら大小合わせて13品目ありました。以下、その中で主だったものを紹介します。

 

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ケッコドン(갯고동)あるいはケッコドゥン(갯고둥)。日本でいうウミニナの一種。全長1.5cmくらい。殻の先端がひとつひとつ丁寧に切り取られており、ロの側からチュッと吸うと身が出てきます。

 

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ポンデギ(번데기) 。言わずと知れたカイコのさなぎです。正直ちょっと苦手なのですが(虫だからではなく臭いが)、ここのは割とおいしめの味付けでした。釜山の飲食店ではパンチャン(突き出しのおかず)にこれが出てくる率が他の地方に比べ高いように感じます。
余談ですが1997年に私が初めて渡韓した際、現地で初めて自分のお金で買って食べたのが明洞の屋台で売られていたポンデギ様でした。

 

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干物っぽい青魚(種類不明)とニンニクの芽、ニンジンなどのムチム(무침:和え物)。見た目通り辛かったです。

 

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細長い魚のチョッカル(젓갈:塩辛) 。何の魚かは不明です。カルチ(갈치:タチウオ)の稚魚のようにも思えるのですが。

 

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おかずの中でも、色といい大きさといい特に存在感のあるカニさん。調べたら「チョムバギコッケ」 (점박이꽃게:ジャノメガザミ)という種でした。うんまい。

 

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オクスス(옥수수:とうもろこし) 。韓国では総じてその傾向が高いのですが、日本のものよりモチモチしており、甘みはやや少ないです。

 

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パーム(밤:栗)とテチュ(대추:ナツメ)の甘煮。テチュは韓国ではポピュラーな食材です。

 

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山芋を薄く切ったもの。タレにつけて食べます。

 

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ピコマク(피꼬막:アカガイ)を生のままヤンニョムに漬けたもの。うんまかったです。

 

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焼きたてのチョギ(조기:イシモチ)。うんまい。個人的にベストのおかずです。あまりのおいしさに、おかわりをお願いしてしまいました(追加料金なし) 。

 

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パジラッ(바지락:アサリ)とスジェビ(수제비:すいとん)の入ったスープ。見た目あっさりしてそうですが、猛烈な辛さで知られる青陽唐辛子(청양고추)が入っているらしく、意外と辛いです。器の文字は「天安門」とあり、そういう名前だった中華料理屋さんの器を再利用しているのかもしれません。

 

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最後に出てきた、ジャガイモとオクラのティギム(튀김:韓国式の天ぷら) 。衣が薄めで、香ばしくてうんまかったです。

これだけおかずが豊富だとさすがに完食とまではいきませんでしたが、がんばって9割以上は一人で食べてまいりました。
2セット以上頼むと違うおかずも出てくるようですので、グループならより楽しめると思います。なお、おかずは時期によっても変化があるようで、前回(2015年11月)はカニなどがなかった一方、クジラの刺身などが出てまいりました。
「コチャンチッ」の営業時間は11:00~23:00。第1・第3日曜日休業。おかずも全体的においしいですし、アジメ(「アジュンマ」の慶尚方言。ここでは女将の意)も親切な方なので、おすすめです。ぜひ。

コチャンチッ(거창집:釜山広域市 中区 新昌洞4街 57)

 

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コチャンチッを出て、国際市場のすぐ西側にある「富平(プピョン)カントン市場」(부평깡통시장)へ。
こちらの市場では朝鮮戦争期、米軍(国連軍)の放出物資である缶詰などが盛んに販売されたことから「カントン」の名が付いたとされています(ここには現在も米軍のレーションを専門に扱う一角があるそうです。私はあまり興味ありませんが……)
写真は富平カントン市場の入口に立っているマスコットキャラクター。よく見ると「カントン」市場らしく、缶詰から頭や手足が出ていますね。

 

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ここ富平カントン市場の名物は、毎日18時から開催される「夜市場」(야시장:ヤシジャン)。2013年に韓国で初めてここ富平カントン市場がスタートし、全国各地の夜市場ブームの火付け役となりました。
日本食を含むエスニック料理を中心とした30台前後の屋台がアーケードの中央に現れ、一列に並びます。狭いアーケードを円滑に通行できるよう、夜市場では右側通行を原則としており、屋台にも「우측통행」(右側通行)との表記があります。

 

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ウユティギム(우유튀김:牛乳天ぷら)の屋台。どんな食べ物でしょうか。想像もつきません。

 

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富平カントン市場の名物のひとつ、シアッホットク(씨앗호떡:ヒマワリの種入りホットク)の屋台。「種ホシトク おいしいです」との手書きの日本語表記と、ハートマークを放出するキャラクターになごみます。これらを含めおいしそうな料理が並びますが、さすがにコチャンチッでおなかいっぱいになったので今回は断念、見物に徹します。

富平カントン市場の夜市場は、毎日18:00~24:00開催。どの料理も概ね3,000ウォン(約300円)前後と安めの設定ですので、夕食・夜食がてらに訪問されることをおすすめします。

富平カントン市場(부평깡통시장:釜山広域市 中区 富平2ギル(富平洞2街)一帯)

 

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帰り道、ある意味チャガルチの名所と化している居酒屋「トリゴヤ」(토리고야)。めちゃくちゃ日本のレトロ趣味です。こういうのを見る度に、日本人が好んでレッテル張りしたがる「反日」とはいったい何なのかと思ってしまいます。ソウルにもあるそうですが、一度は入ってみたいですね。
トリゴヤ(토리고야:釜山広域市 中区 光復路 6-1(富平洞2街 33-7))

 

そうして沙上のホテルへと戻り、明日の街歩きのため眠りにつくのでした……

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