かつてのTwitterアカウント(削除済み)の別館です。
主に旅での出来事につき、ツイートでは語り切れなかったことを書いたりしたいと思います。

光州の旅[その2] - 国立5.18民主墓地

前回(下記)からの続きです。

gashin-shoutan.hatenablog.com

松汀トッカルビ1号店」にて名物のトッカルビを食べた後は、いよいよ最初の目的地へ向かいます。
前回書くのを忘れてましたが、光州松汀駅には跨線橋の手前にコインロッカーがあって、そこに荷物を預けてきました。私の経験上、韓国の地方の駅やバスターミナルは日本よりもコインロッカーが少ない傾向にあり、大きな荷物を持って行ったときには難儀することも少なくありません。なので韓国地方の旅に際しては、事前に行先の街のコインロッカー情報を血眼になって探します(^_^;)
なのでこのブログでは、これからも韓国地方の駅・バスターミナルのコインロッカー情報を積極的に配信してまいります。

 

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そしてやって来た「国立5.18民主墓地」(국립5·18민주묘지)。1980年5月18日より同月27日までの10日間にわたって繰り広げられた「5.18民主化運動」(あるいは「光州民衆抗争」)で、戒厳軍による暴虐の犠牲となった市民たちが眠る場所。これから光州市内の5.18民主化運動の史跡を歩くに先立ち、どうしても最初に訪問したかったのです。
写真は墓地の玄関に相当する「民主の門」(민주의 문)。今回は時間の都合で光州松汀駅からタクシーに乗りましたが、かなり高い(日本円で3,000円近い)ので、路線バスでの来場をおすすめします(本エントリー最後に紹介します)。

 

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墓地の全体像はこうなっています(「国立5.18民主墓地」日本語版パンフレットより引用。以下、本エントリーではこの図を「上図」と呼びます)。先ほどの「民主の門」は中央手前の⑤にあたります。
ここで私は、墓地の職員の方と待ち合わせをしていました。国立5.18民主墓地では、1週間前までに電話で予約をすると、日本語を話せる職員の方の案内を受けられるのです(ただし電話予約は韓国語)。案内といってもずっと墓地内をついてきてもらえるわけでなく、「民主の門」での10分程度の簡単な案内です。とはいえ場内の見どころや巡回コースを教えていただけるのみならず、この後訪問する「5.18追慕館」でのビデオ上映の手配もしていただけたので、大変助かりました。おすすめです。

 

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「民主の門」から見た「追念門」(추념문:上図⑧)、「5.18民衆抗争追慕塔」(5·18민중항쟁추모탑:上図⑩)。

 

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まずは「5.18追慕館」(5·18추모관:上図⑥)へ。近くだとフレームに収まりきれないほど大きな建物です。ここでまず、先の職員の方が手配された5.18民主化運動の日本語版ドキュメンタリービデオ(約35分)を鑑賞。5.18民主化運動については事前に勉強してきたつもりでしたが、日本ではなかなか観る機会のない1980年当時の映像は胸に迫るものがあります。

 

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ビデオが終了したら館内展示へ。当時の西ドイツの『シュピーゲル』誌に掲載された、抗争過程で死亡した父の遺影を持つ子どもの写真が迎えます。
ここは訪問されるみなさんにどうしても見ていただきたい場所なので、あえて詳しくは取り上げませんが、その中で特に印象に残ったものをいくつか紹介します。

 

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全羅南道庁(当時)前の錦南路にて1980年5月21日13時に実行された、戒厳軍による一斉銃撃の犠牲者が身につけていた時計。

 

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腐敗が進む犠牲者の遺体を包んたビニール。はがす間もなく埋葬しなければなりませんでした。旧墓地から国立5.18民主墓地への改葬の際に出土したもの。

 

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戒厳軍の兵士が持っていた「鎮圧棒」。本物と思われます。戒厳軍の兵士たちは光州の市街地でこの棒をあたりかまわず振り回して市民たちを殴打し、死に至らしめました。その様子は日本でも公開された映画『光州5・18』(原題『화려한 휴가』:華麗なる休暇)の中でも再現されています。

 

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抗争期間において、現地のトゥルブル(들불:野火)夜学のメンバーを中心に発行された『闘士会報』(투사회보)第6号。(1980年)5月23日付とあります。陸路や市外電話を遮断され光州の街全体が孤立し、テレビやラジオは戒厳軍寄りの報道一色となる中、光州市民たちの新聞代わりとなったものです。

 これら以外にも「5.18追慕館」には、民衆抗争当時を伝える貴重な史料が多数展示されています。光州を訪問された際にはぜひ足を運んでみてください。ビデオを含め、1時間くらいで見て回れると思います。

 

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「5.18追慕館」を出て、墓地を巡回します。写真は「5.18民衆抗争追慕塔」(5·18민중항쟁추모탑:上図⑩)。高さ約40m。頂点近くの球状のオブジェは「復活」を象徴する卵と、それを包み込む両手を表しているとのこと。

 

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「5.18民衆抗争追慕塔」を挟むようにして、当時の市民たちの姿を描いた2つのブロンズ彫刻が建てられています。こちらは「武装抗戦軍像」(무장항쟁군상)。戒厳軍に対抗するため結成された市民軍兵士たちの雄姿です。

 

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そしてこちらは「大同世上軍像」(대동세상군상)。負傷者を手当てする看護師をはじめ、助け合いつつ団結し市民軍を支援する人々の姿を描いています。

 

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さらにこれらブロンズ彫刻の後方には、5.18民主化運動の過程における重要な場面を再現したブロンズレリーフ「5月民衆抗争図」(5월 민중항쟁도)が、「5.18民衆抗争追慕塔」を中心に左右5枚ずつはめ込まれています。写真はそのうちのひとつ、先ほど紹介した「鎮圧棒」などを用いた戒厳軍の無差別暴力の場面。

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5.18民衆抗争追慕塔の基部の通路を抜けると「第1墓域」(제1묘역:上図⑨)です。およそ1,500名の方が埋葬されています。

 

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「遺影奉安所」(유영봉안소:上図⑫)の外観。民衆抗争の過程で殺害された方などの遺影が内部に並べられています。内部は撮影禁止ではありませんが、どうしても撮ることができませんでした。

 

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「歴史の門」(역사의 문:上図⑬)。「第2墓域」(제2묘역:上図⑰)、そして次に向かう「5.18旧墓地」方面への門です。

 

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「歴史の門」から「5.18旧墓地」までの途中には、壬辰倭乱豊臣秀吉による2度の朝鮮出兵)や東学農民戦争(甲午農民戦争東学党の乱)、大日本帝国による植民地支配などへの抵抗を描いた石造りのレリーフがあります。写真はそれらの中から特に光州と縁が深い、1929年11月に発生した「光州学生独立運動」(광주학생독립운동)。ここ光州で日本人が朝鮮人女学生を侮辱したことをきっかけに朝鮮人学生グループと日本人学生グループが衝突し、やがて朝鮮全土へと展開してゆきます。
こうした展示を見て「やっぱり反日だ」などと短絡的に考えてしまう人は、まずはこうした「反日」抗争が一体どこの場所で、どうやって引き起こされたのか、じっくり考えてみましょう。

 

最後に、この「国立5.18民主墓地」へのアクセスですが、冒頭にも書いた通り光州の都心から離れているので、タクシーよりも路線バスの利用をおすすめします。
ここと隣の「5.18旧墓地」のほか、民衆抗争のスタート地となった「全南大学校」、市民と戒厳軍との攻防戦が展開された「光州駅」、民衆抗争の主舞台であり現在も光州の中心街である「錦南路」など5.18民主化運動の主要スポットと、地下鉄「文化殿堂」駅や「錦南路4街」駅、光州総合バスターミナル「U-SQUARE」など交通の要所を結ぶ路線バスが便利です。
その路線番号はずばり「518」。絶対に忘れない番号ですね。平日なら25~27分、土日だと30~36分間隔で運行されているようです。路線図はこちら(「NAVER地図」へのリンク、韓国語)。 地下鉄1号線「文化殿堂」(문화전당)駅から近い「国立アジア文化殿堂」(국립아시아문화전당)停留所からだとバスでおよそ50分です。

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「国立5.18民主墓地」のオープン時間帯は、09:00~18:00。
うち「5.18追慕館」の入館時間は17:30までですので(観覧は18:00まで)、ご注意ください。すべての施設が入場無料です。

 

以上で「国立5.18民主墓地」のレポは終わりです。次回は、隣接する「5.18旧墓地」からスタートする5.18民主化運動の史跡巡りです。

 

 

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