かつてのTwitterアカウント(削除済み)の別館です。
主に旅での出来事につき、ツイートでは語り切れなかったことを書いたりしたいと思います。

釜山の旅[その6] - 海沿いに貼り付いた風光明媚な「白い早瀬の村」ヒンヨウル文化マウル

前回のエントリーの続きです。

明けて、最終日となる2月12日(日)の朝。この日もいい天気です。
チェックアウトを済ませた後、まずは荷物を預けるためにコインロッカーへ。ホテルから近い地下鉄(都市鉄道) 2号線「沙上」(ササン)駅にもコインロッカーはありますが、台数が限られているうえ、私のキャリーバッグが入る大サイズはないためスルー。

 

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向かったのはこちらのブログで知った、ホテルから徒歩5分程度の釜山西部バスターミナル(부산서부버스터미널)1階のコインロッカー。こちらの方が台数が多く、しかも安いのです。小サイズだとなんと1日1,000ウォン(約100円)! 私のキャリーバッグが入る大サイズでも1日3,000ウォン(約300円)という、 日本は言うまでもなく韓国でもほとんど見ないリーズナブルな価格設定。
宿泊が沙上のホテルではない方でも、大抵の方は金海空港へ向かう際にほぼ必ず(地下鉄と釜山金海軽電鉄との乗り換えのため)ここ沙上を通ることと思いますので、最終日の荷物置き場には絶好の場所です。
釜山西部バスターミナル (부산서부버스터미널:釜山広域市 沙上区 沙上路 201 (掛法洞 533-6))

 

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釜山西部バスターミナルのすぐ脇には、バスの利用客向けに朝早くから営業している飲食店が。
その中で今回は、先のコインロッカーと同じブログ記事で知ったオデン屋さんに入ります。

 

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韓国オデンの特徴は、全長3~40cmはあろうかという長い串にオデン種が刺さっていること。もはやちょっとした凶器です。前日に訪れた「古来思」(コレサ)海雲台店(こちらのエントリーにて紹介)にある巨大なオブジェもこんな感じでしたね。
スープは日本(西日本風)のそれとさほど変わらない懐かしい味。釜山名物のオムク(어묵:魚肉の練り物)やカレトック(가래떡:うるち米の餅)などを5本くらい食べても値段は2,500ウォン(約250円)。つまり1本500ウォン(約50円)!! しかもなかなかおいしかったです。

 

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この日もまた前日(11日)と同じく8番バスに乗車し、これまた前日と同じ「西区庁」バス停にて下車。ここから歩いて5分程度のところにあるのが、主に鮮魚や海藻などの海産物を扱う「忠武洞セビョク市場」(충무동 새벽시장)です。
「セビョク」とは「明け方、早朝」の意。その名の通り午前3時にオープンし、同10時には閉まるというかなり朝型の在来市場で、私が到着した午前7時台はすでに後半に入っている計算となります。

 

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ここを訪問するのは2016年1月に続き2回目。鮮魚もそうですが、とりわけ海藻の種類が豊富なこともあって、見ていて楽しいです。

忠武洞セビョク市場(충무동 새벽시장:釜山広域市 西区 忠武大路256番ギル 一帯)

 

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忠武洞セビョク市場を出て、チャガルチ市場へ向かう途中の海岸通りにある食堂街。市場で働く人々の胃袋を支えています。

 

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釜山最大の水産市場、チャガルチ市場(자갈치시장)。ソウルの鷺梁津(ノリャンジン)水産市場をはじめ韓国各地の水産市場と同じく、一般の人でも海産物を購入でき、それを館内の食堂に持ち込むことで刺身やヘムルタンなどに調理してもらえます(席代、調理料別途負担) 。
余談ですが、私はここを訪れるといつも、チャガルチ市場のすぐそばにある某店で浦項(ポハン)・九龍浦(クリョンポ)名物の「クァメギ」 (과메기:サンマを寒風に晒して作った生干し。ニシンのものは最高級品とされる)の冷凍品をお土産に購入します。そのまま食べてもおいしいのですが、韓国式にネギや酢コチュジャンとあわせてケンニッ(エゴマの葉)などで包んで食べると超うんまいのです。

 

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チャガルチ市場を過ぎてさらに歩くと、「影島大橋」(ヨンドデキョ)の威容が見えてきます。
この橋は釜山の旧市街である南浦(ナムポ)洞・中央(チュンアン)洞と対岸の影島(ヨンド)とを結ぶため、日帝強占期の1934年に開通。大型船舶が航行する際に路面の一部が上方向へ跳ね上がる独特の構造は長らく使用されていなかったものの、2013年のリニューアルの際に復活し、いまでは1日1回(14:00~14:15)開閉が実施されています。
架橋以降は釜山のランドマーク的存在となったこの橋、1950年6月25日に勃発したことから「6.25」(ユギオ)とも呼ばれ3年あまり続いた朝鮮戦争期とその休戦後には、避難民たちが散り散りになった家族と再会するための場所としても利用されるようになりました。その当時の辛苦をしのぶため、影島大橋のたもとの海岸には避難民を象徴する家族の像が建てられています。

影島大橋(영도대교:釜山広域市 中区 中央洞7街~影島区 大橋洞1街)

 

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そのたもとの海岸沿いには日帝強占期当時に建てられ、光復後には占いの館としても利用された日本家屋がいくつか建っていたそうですが、いまでは最後の1軒が残るのみとなりました。
こうした日本家屋もまた、植民地支配の収奪の一環として建てられたものであり、これらへの郷愁に浸るよりも先にどうしてもそのことが頭をよぎってしまいます。
あくまで個人的な見解ですが、これら日本家屋は光復後に韓国の人々が大切に利用し暮らしてきたことにこそ意味があると思いますし、それだからこそ郷愁をも感じ得るものです。文化財的な価値があるものを含め、取り壊されるのはもったいないという気持ちも正直ないとはいえませんが、あくまでそれは韓国の人が決めるべきことです。

 

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影島大橋の上から眺めた釜山港(南港)の眺め。この風景を見るといつも、大ヒット曲「釜山港へ帰れ」のメロディが頭の中を流れます。

 

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影島大橋を歩いて渡ると、写真の像が建っています。朝鮮戦争期にヒットした歌謡曲「굳세어라 금순아」(頑張れクムスン)を歌ったここ影島生まれの歌手、玄仁(현인:ヒョニン、1919-2002)さんを記念した像のようで、近づくとそれと思しきメロディが流れます。

前回(2016年1月)の訪問時には影島大橋を渡ってすぐ引き返してきましたが、今回は影島にも行きたい場所があるのでそのまま直進。少し歩いた「影島警察署」バス停から85番バスに乗車して向かったのは、影島の西海岸にある「ヒンヨウル(ヒニョウル)文化マウル」(흰여울문화마을)。

 

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この「ヒンヨウル文化マウル」とは、朝鮮戦争期に身ひとつで故郷から逃れてきた避難民たちを含め、低所得層の人々が暮らしたいわゆるタルトンネ(달동네:斜面などに形成された低所得層の集落)のひとつです。
マウル(마을:村、集落)の名前にあるヒンヨウルとは、直訳すると「ヒン」(흰:白い)「ヨウル」(여울:早瀬)の意味で、マウル一帯を含む影島の最高峰、蓬莱(ポンネ)山から流れる水の様子からこの名前がつけられたとのことです。
こちらもまた鄭銀淑さんの著書『釜山の人情食堂』で存在を知り、またある方の現地でのツイートを拝見して俄然行きたいとの気持ちが高まったことから、今回の訪問となった次第です。

 

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写真1枚目、大通りにある「흰여울길」(ヒンヨウルギル)の標識から脇道に入るとまもなく、2枚目のマウル入口を示す看板が出てまいります。

 

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このヒンヨウル文化マウルの特徴は、海岸の斜面にへばりつくように走る1本の細い歩道(ヒンヨウルギル)を中心に、マウルが形成されていること。「ヒンヨウル」の名を意識してか、住宅の壁の色も、歩道の防護壁の色も概ね白で統一されています。そのため誰が呼んだか「釜山のサントリーニ」との異名もあるとか。タルトンネ再生の成功事例である同じ釜山の「甘川(カムチョン)文化マウル」(こちらのエントリーにて紹介)を意識しつつも、地理的特性を活かした全く異なる街づくりがなされています。

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マウルを貫くヒンヨウルギルのあちこちに、写真のような海沿いの街らしいオブジェが。一部は公衆トイレとあわせてちょうど工事中で、甘川文化マウルに負けじと観光客誘致に期待するマウルの意気込みが感じられます。

 

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こうしたマウルにはつきものの壁画が、ここでも家の壁を彩ります。なごみますね。個人的には大好きです。

 

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マウルの中には、故・盧武鉉(노무현:ノ・ムヒョン、1946-2009)元大統領の若き頃をモデルにしたというソン・ガンホさん主演の映画『弁護人』(변호인)のロケに使用された1件の住宅があります。
今年(2017年) 4月9日に亡くなったキム・ヨンエさん演じる、主人公が足しげく通うテジクッパ屋のアジメ(「アジュンマ」の釜山方言。ここでは女主人の意)の自宅という設定で登場したのがまさにこちらの住宅であり、現在はマウルの案内所として使用されているそうです。

 

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壁には、映画のメインキャストの写真、そして劇中のアジメのセリフが。

“니 변호사 맞재?  변호사님아 니 내 쫌 도와도.”
(あなた弁護士でしょ? 弁護士なら私を助けてよ。)

警察により不当に拘留され、裁判を受けることとなった息子の救出を主人公の弁護士に迫る、アジメのセリフです。
この懇願を受けて、それまで金儲け第一であった主人公は変節し、アジメの息子やその仲間たちを救うため、そして韓国の民主化のために戦うこととなります。
『弁護人』、おすすめの映画です。ぜひ観てみてください。

 

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ロケ地の家、高さ1.4mくらいの勝手口の上にあった、愛らしい「頭上注意」。なごみます。

 

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ヒンヨウルギルから海と反対方向に入る道のひとつひとつがいちいち絵になるのも、このマウルの特色かもしれません。

 

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マウルを貫くヒンヨウルギルの終端には、海岸の消波ブロック沿いの道へと降りてゆく色とりどりの階段、通称「ピアノ階段」があります。見ての通りなかなか急な階段です。実際に登ってみたら、途中に展望台を挟んで、ヒンヨウルギルまで200段もありました。足ガクガク。

 

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ピアノ階段へ下りる途中の「二松島(イソンド)展望台」。空気の澄んだ晴れの日には遠く対馬も見えるとか。あいにくこの日は見えませんでした。

 

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今回は朝(午前9時台)に訪問しましたが、南西に向かって海に面しているだけあって、日没時はここから眺める夕日がそれはもう美しいこと極まりないそうです。次はぜひともその時間帯を狙って訪問したいものです。

「ヒンヨウル文化マウル」へのアクセスは、まず地下鉄(都市鉄道) 1号線「南浦」(ナムポ)駅で下車、6番出口を出て影島大橋の方向へ移動すると最初に現れる「影島大橋(南浦駅)」(영도대교(남포역) )バス停から679718285508番のいずれかの一般バスに乗車すると、14分前後で到着します。私のように影島大橋を歩いて渡りたいという方は、 次の「影島警察署」(영도경찰서)バス停から前述のバスに乗ってもよいでしょう。
住宅地であるうえ、観光客の来訪を期して街づくりがなされている場所ですので訪問自体は24時間いつでも可能ですが、当然ながらここで生活されている方も多数いらっしゃいますので、お静かに観覧いただくようお願いいたします。
ヒンヨウル(ヒニョウル)文化マウル(흰여울문화마을:釜山市 影島区 瀛仙洞4街 186-101 一帯)

 

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そんなわけで、次の目的地である凡一(ポミル)洞へと向かうため、「ヒンヨウル文化マウル」バス停から82番バスに乗り込む私でした。
それでは、次回のエントリーに続きます。

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