かつてのTwitterアカウント(削除済み)の別館です。
主に旅での出来事につき、ツイートでは語り切れなかったことを書いたりしたいと思います。

群山の旅[201801_01] - あの映画の撮影地でファンテ(スケトウダラ)尽くしの群山の夜

今回からは、本年(2018年)1月19日(金)から同月21日(月)にかけての全羅北道(チョルラブット)群山(クンサン)市の旅をお届けします。

 

f:id:gashin_shoutan:20181224133744p:plain

f:id:gashin_shoutan:20181224175517p:plain
群山市は韓国の西海岸、全羅北道の北西部に位置する人口約28万人の港湾都市です。
かつて鎮浦(ジンポ)と呼ばれていたこの街は、韓国有数の大河である錦江(クムガン)が西海(ソヘ。黄海)へと注ぐ河口に位置しているため、古くから港町として発展してきました。そうした地の利から、高麗時代には租税の穀物を都へ移送するまで一時保管する「鎮成倉(ジンソンチャン)」が設置され、これは朝鮮時代にも「群山倉(クンサンチャン)」と名を変えて受け継がれています。
このような理由から、鎮浦は高麗時代から幾度となく倭寇の襲撃を受けてきました。中でも高麗末期、1380年夏のそれは500隻あまりもの大軍によるものでしたが、このとき崔茂宣(촤무선:チェ・ムソン、1325-1395)が中国から導入した火砲を用いてこれを全滅させた戦いは「鎮浦大捷(ジンポ・テジョッ)」として今日まで語り継がれています。
一方、群山市西側の西海上に浮かぶ小島であり、現在は同市の一大観光地となっている仙遊島(ソニュド)はかつて「群山島」と呼ばれ、一帯には水軍の鎮(地方の軍事拠点)である「群山鎮(クンサンジン)」が設置されていました。これが朝鮮時代初期の15世紀初頭に鎮浦へ移転。その後、朝鮮時代中期の17世紀には再び仙遊島一帯に水軍鎮が設置されますが、従来の(鎮浦の)群山鎮と区別するため「古群山鎮(コグンサンジン)」と呼ばれるようになります。これが仙遊島を含む古群山群島の由来となっています。

 

f:id:gashin_shoutan:20181224123012j:plain
時代は下って1899年、「沃溝府(オックブ)」となったこの港町は時の大韓帝国皇帝、高宗(고종:コジョン、1852-1919)の勅令によりとして国外との貿易港である開港場に指定され、1910年には群山府(クンサンブ)に名称を変更しています。
これら開港場の設置は関税収入による財政の適正化に加え、海外貿易による国内経済の活性化を期したものでしたが、現実には日本をはじめとする海外資本の進出、とりわけ米の対外流出によりかえって国内経済の弱体化を招く結果となりました。
日韓併合」を経た日帝強占期には、朝鮮最大の穀倉地帯である全羅道一帯で生産された米を日本へ移送する港として、まさしく収奪の現場となりました。そのため群山港一帯の地名は、これら収奪米を一時的に収蔵する場所という意味の「蔵米洞(チャンミドン)」の名が現在も残っています。
群山に先んじて開港場となった仁川広域市中区(チュング)全羅南道(チョルラナムド)木浦(モッポ)市などと同じく、群山の旧市街である群山港周辺には開港期から日帝強占期にかけての近代建築や日本家屋が数多く残されています。これらは当時の支配と収奪を記憶し、後世に継承するために保全され、その一部は展示施設として開放されています。写真はそれらのうち1908年築の「旧群山税関本館」(史跡第545号)。同様の様式であるソウルの「旧ソウル駅舎」および「韓国銀行本館」ととともに、韓国における「西洋古典主義3大建築物」と並び称される建物です。

 

f:id:gashin_shoutan:20180930192759j:plain
そして私にとって群山といえば、大好きな1998年公開の韓国映画八月のクリスマス』(原題『8월의 크리스마스』)のメイン撮影地であり、どうしても訪れたかった街でした。写真はハン・ソッキュさん演じる主人公ジョンウォンの経営する「草原写真館」を同じ場所に再現した建物。店先にはジョンウォンの愛車のスクーターも置かれています。初めて映画を観てから20年近く、ようやくその念願がかなうこととなりました。こちらを含む撮影地巡りについては以後のエントリーにて詳しく紹介したいと思います。

 

前置きが長くなりましたが、それでは本題に入ります。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235141j:plain
今回はジンエアーの成田-仁川線を利用しての韓国入り。
ジンエアーは機内で軽食が提供されるとはいえ、さすがに物足りないうえ、目的地まではまだかなり時間があるので、まずは腹ごしらえから。

 

f:id:gashin_shoutan:20181224153637j:plain
訪れたのは、第1夕ーミナルの到着ロビーにある「第ー製麺所」(チェイルジェミョンソ)。第一製糖(チェイルジェダン)株式会社を核とするCJグループの全国チェーンで、その名の通り麺類を主に扱っています。日本人にとっては認識しやすい漢字表記の屋号。みなさまの中にもどこかで見かけた、あるいは実際に利用した方も少なくないことでしょう。
せっかく韓国に来たのに全国チェーン店の食事だなんて……とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、財閥グループ運営とはいえ栄枯盛衰の激しい韓国飲食業界で全国展開できるということは、つまりそれだけの味を持つということです。今回初めて同店を利用して以来、そのことを痛感しています。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235207j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235210j:plain
注文したのは「キムチマリククス(김치말이국수)」。麺にキムチを乗せ、トンチミ(동치미:大根の水キムチの汁)をかけて食べるククス(국수:麺料理の一般名称)のことで、こちらでは麺にソミョン(소면:日本でいうそうめん)が用いられています。
スープの氷も浮いて真冬にはちょっと涼しげすぎる見た目ですが、ターミナル内は暖房が効いているうえ私自身も暑がりなので、むしろちょうどよい感じです(もっともトンチミは越冬食材なのでキムチマリククスを真冬に食べるのは決して季節外れではないそうですが)
冷麺のような歯ごたえこそないものの、トンチミとキムチベースのスープにしっかりした酸味があっておいしかったです。そんなわけでこちらのお店、同年5月の光州の旅(後日紹介予定)でも帰国直前にまた利用したのでした。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235214j:plain
こちらのお店「第一製麺所仁川空港入国店」の営業時間は午前3時~午前0時、年中無休。「入国店」の店名からも分かるように、仁川国際空港第1ターミナル1階、ゲート「C」近くの到着ロビーに面しています。仁川国際空港から直接バスで地方へ向かわれる方、あるいは帰国直前にお腹が空いた方には最適のお店です。

第一製麺所 仁川空港入国店(제일제면소 인천공항입국점:仁川広域市 中区 空港路 272 (雲西洞 2840))

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235223j:plain
仁川国際空港からは、この当時まだ空港鉄道に乗り入れていたKTX韓国高速鉄道)に乗車します。この前年(2017年)10月の光州(クァンジュ)広域市・全羅南道(チョルラナムド)の旅で利用して以来です。ただ前回と異なるのは、仁川国際空港の第2ターミナルとあわせて開業した「仁川空港第2ターミナル」駅の誕生に伴い、駅名が「仁川空港」駅から「仁川空港第1ターミナル」駅に改称されたこと。
今回の旅は、本年(2018年)2月に開催された平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックパラリンピックの開催直前。そんなわけで駅のホームには、韓英2言語によるKTX京江線キョンガンソン)路線図&各競技会場への最寄り駅案内が。その京江線もこの前年(2017年)12月に開業したばかりです。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235229j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235232j:plain
私が乗車する木浦行き「KTX-山川(サンチョン)」が第1ターミナル駅のホームに入ります。前回(2017年10月)と全く同じ列車ですが、当時とは異なり第2ターミナル駅KTXの起点/終点となったため、前回のように早くから当駅で列車が待機することはなくなりました。
もっとも、これもわずかな期間の出来事であり、その後平昌冬季五輪への輸送を終えた2018年3月には空港鉄道への乗り入れが休止、そして同7月には乗り入れ廃止が正式決定したため、この日のような仁川空港からのKTX乗車は過去のものとなってしまいました。
元々利用客が少なかったことに加え(この日も前年10月も数えるほどでした)、その乗り入れが空港鉄道、とりわけ直通列車の増発に支障となっていたことが廃止理由のようです。特に後者を考えればやむを得ない判断ではありますが、せめてその代わりに龍山(ヨンサン)駅発着のKTX全列車のソウル駅延長、および幸信(へンシン)駅発着のKTX全列車のソウル駅停車を切にお願いしたいところです……。

 

f:id:gashin_shoutan:20181224025636j:plain
余談ですが、KTXを運行するKorail韓国鉄道公社)では空港鉄道乗り入れ休止の少し前から、地方のKTX乗客を対象に、光明(クァンミョン)駅での<6770>番リムジンバスヘの乗換による空港アクセスの普及に力を入れています。写真は本年(2018年)10月に全羅南道の順天(スンチョン)駅構内にて撮影した宣伝広告。とはいえ渋滞や少ない定員など、不確定要素の大きいバス輸送はちょっと不安がありますよね……。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235248j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235259j:plain
仁川国際空港から2時間20分ほどで、益山(イクサン)駅に到着。ここで乗り換えのために下車します。私にとっては初めての利用です。駅前にはきれいなイルミネーションが。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235307j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235312j:plain
全羅北道益山市の玄関口である同駅は、光州松汀(ソンジョン)駅や羅州(ナジュ)駅を経て木浦駅へ向かうKTX湖南線(ホナムソン)、および全州(チョンジュ)駅や順天駅を経て麗水(ヨス)エキスポ駅へ向かうKTX全羅線(チョルラソン)の分岐点であり、分割併合機能を持つ「KTX-山川」はこの駅で下り列車の湖南線方面と全羅線方面の車両が切り離されたり、反対に上り列車が併結されたりします。そうした事情もあって、湖南線と全羅線のKTX全列車がこの駅に停車します。
さらにKTXではありませんが、これから私が乗車する長項線(チャンハンソン)もここ益山駅から分岐するなど、まさしく交通の要衝と言うべき存在の駅です。
ちなみにこの益山駅、1995年までは裡里(イリ)駅と呼ばれていました。裡里とは益山市の旧市名であり、同年に旧益山郡と合併したことで現在の益山市が誕生しています。その裡里駅時代の1977年11月11日には同駅構内に停車中であった貨物列車のダイナマイトが爆発、死者59名に負傷者1300名以上という大惨事が発生しています(裡里駅爆発事故)。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235316j:plain
益山駅からは長項線のムグンファ号に乗車します。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235323j:plain
約23分で今回の目的地、群山駅に到着。
実は21kmほどしか離れていない両駅間にこれほど時間を要するのは、長項線が単線であり、途中駅で対向列車を待たなければならないから。単線区間は益山駅から130kmあまりも先の新昌(シンチャン)駅まで続くため、長項線では列車遅延もしばしばだといいます。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235328j:plain
群山駅舎。2008年築の立派な建物です。
元々は益山駅から分岐する群山線(クンサンソン)の終点であり、もっと市街地寄りにありましたが、群山市が北側で面する大河、錦江を渡る鉄橋の完成により2008年1月に対岸の忠清南道(チュンチョンナムド)舒川(ソチョン)郡の長項(チャンハン)駅止まりであった長項線と連結されたことに伴い移設されたものです。

こんなに立派な駅舎ですが、コインロッカーはありません。
念のため駅員さんに尋ねたところ、よろしければ駅務室で荷物を預かりましょうか、とのご回答が。まさかのご提案に感謝しつつも、この日は大した移動予定はなかったため、群山市内を巡る予定であった次の日にお願いすることに。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235340j:plain
駅前からタクシーに乗って市街地方面へ移動します。
まずやって来たのは、旧群山駅の跡地からも近い新栄洞(シニョンドン)。ここにある在来市場「新栄市場」の一角に、いい感じの酒場があると聞いたためです。ほとんどの店が閉店済みの新栄市場内を進みます。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235345j:plain
目的の酒場「ホンチッ(홍집)」。扉にはこうした情感あふれる酒場に特有の「주류일절(酒類一切)」の表記が。実はこの表記、字面の上では「酒類は一切ない」という意味となります。本来であれば「주류일체」(「酒類一切を扱う」の意)と表記すべきところですが、前者の表記が広まったため一般的になったのだそうです。
さてこちらのお店、結論から言えば今回は入店することができませんでした。午後8時閉店との情報を得ていましたが、正しくは午後7時なのだとか。無理にお願いすることはできないので、訪問は次回に預けることとし、気を取り直してまたタクシーで別のお店へ向かいます。

続いてやって来たのは羅雲洞(ナウンドン)、群山の名物料理であるコッケジャン(꽃게장:ワタリガニのカンジャン(醤油)漬け)の名店として知られる某店。いかにも賑わってそうな広い駐車場付きの立派な建物のお店です。しかし、稼ぎどきの金曜の夜なのに建物は真っ暗。どうやらごく最近になって店を畳んでしまったようです。
さて困りました。夕食候補にチェックした別のコッケジャンのお店はいずれも歩いて行ける距離にはありません。そのうえどうしたことか群山のコッケジャンのお店は総じて閉店時刻が早く(遅い店でも午後10時)、すでに8時半の現時点では移動したところでラストオーダーに間に合わない可能性があります。
そんなわけでコッケジャンはあきらめ、閉店時刻まで余裕のありそうな次の候補のお店へ。キャリーバッグを引きずって向かいます。 

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235357j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235405j:plain
道すがらにあった謎のお店「モロミ」。日本文化へのリスペクトがすごいです。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235412j:plain
そうして20分あまり歩いてやって来たのが、写真のお店「ファンテカメクサラムドゥル群山本店」。屋号にもあるようにファンテ(황태:スケトウダラの寒干し)の専門店です。別に群山の特産品というわけではありませんが、ファンテ尽くしの料理がおいしそうだったので候補に加えていたものです。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235421j:plain
お通し。日本とは異なりもちろん無料です。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235440j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235446j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235502j:plain

f:id:gashin_shoutan:20180926235518j:plain
注文したのは、ファンテモドゥムセットと半乾(パンゴン)ノガリ。モドゥムとは「盛り合わせ」、半乾とは「一夜干し」、そしてノガリ(노가리)とはスケトウダラの幼魚の干物のこと。ファンテモドゥムセットは身のみならず皮に骨までも付いてくるという、文字通りファンテのすべてが味わえる盛り合わせです。またノガリにはソウル・乙支路3街(ウルチロサムガ)の「乙支路ノガリコルモク」の露天ホーフと同じく、猛烈に辛いけどおいしいヤンニョム&マヨネーズのつけダレが付いてきます。どちらもうんまい。ビールが進みます。

 

f:id:gashin_shoutan:20180926235509j:plain
そしてこちらのお店、注文の度にサービスで出てくる写真のファンテケランマリ(ファンテと玉子のスープ)がまたうんまいのです。私の食べっぷりがいいのか、お店の方がサービスしてくださいます。気づいたら3杯目だったという。こう見えても実はかなり辛くて、最初は口にする度に咳き込んだほどですが、これがもう猛烈にうんまくて。
ああ、紆余曲折があったとはいえ、このお店に来て本当によかった。自分がいまあの憧れの『八月のクリスマス』の撮影地にいるということを含め、万感迫るものがあります。

 

f:id:gashin_shoutan:20181224142639j:plain
こちらのお店「ファンテカメクサラムドゥル」の営業時間は午後4時(週末は午後2時)~午前2時、第3日曜日定休。
Korail「群山」駅からであれば、「群山駅(군산역)」バス停から<1><2><3><4><7>番市内バスのいずれかに乗車、約31分で到着する「中央女高(중앙여고)」バス停から徒歩約6分(約380m)。または<11><12><13><15><16>番市内バスのいずれかに乗車、約41分で到着する「秀松現代アパート(수송현대아파트)」バス停から徒歩約5分(約310m)
また「群山高速バスターミナル」または「群山市外バスターミナル」(隣接しています)からであれば、「市外バスターミナル(시외버스터미널)」バス停から<11><12><13><15><16><17><18><19>番市内バスのいずれかに乗車、約6分で到着する「秀松初等学校(수송현대아파트)」バス停から徒歩約8分(約510m)。おすすめのお店です。

ファンテカメクサラムドゥル群山本店(황태가맥사람들 군산본점:全羅北道 群山市 築東アンキル 65  (秀松洞 444-7))

 

お腹もいっぱいになったところで、この日の宿へ移動。次の日の群山街歩きへ向けてゆっくりと休むのでした。
それでは、次回のエントリーへ続きます。

 

(c) 2016-2021 ぽこぽこ( @gashin_shoutan )本ブログの無断転載を禁止します。